社会人3年目の春、集まりで一度だけ話した人と、後日カフェで向かい合って座りました。90分です。90分ぶん、相手の顔がずっと見えています。
地元の親友とは、付き合いが10年です。向かい合って座って、顔を見ながら話した時間を全部足しても、半日ぶんもありません。
いっぽうで、自転車で並んで走った時間。部室でそれぞれ別のことをしていた時間。コンビニの駐車場で同じ看板をながめていた時間。こちらは、数えようとして途中でやめました。
つまり東京で人と会うとき、私は毎回いきなり、10年で半日ぶんしかなかったほうを、初対面の相手と90分やろうとしていました。原因は自分の会話力。しばらくそう思っていました。そこではありませんでした。
石川県から東京に出てきました小幡十矛です。いまは20代の集まりを運営しています(Coelia代表)。
Coelia代表・小幡十矛が、なぜCoeliaを作ったのかを書いています。なぜCoeliaを作ったのか
初対面の90分は、沈黙が来た瞬間に全部が止まります
あの日の流れは、いま思い出しても順番まで言えます。飲み物が来て、仕事の話、出身の話、休みの日は何をしているかの話。ここまでで25分。ふつうに楽しかったです。
問題は3周目でした。手持ちの話が切れて、5秒の沈黙が流れた。相手がスマホを見た。私はメニューをもう一度開いました。読むところは、もう1文字も残っていません。ドリンクの欄まで一周して、フードの欄の注意書きまで読み終わっていました。
帰り道に出した結論は、いま考えるとおかしなものでした。もっと話題を持っておけばよかった。在庫が足りなかったのです、と。次の約束までに仕入れよう、と思いました。
話題を増やしても、切れる時刻が後ろへずれるだけでした
仕入れた。ニュース、見た映画、出身地のあるある、天気の話の派生。頭の中に棚を作って、番号まで振りました。
効果はありました。3周目で切れていたのが、4周目まで持ちます。ただ、90分は90分のままです。棚が空になる時刻が、20分うしろへずれただけでした。
何度かやって、ようやく手前の疑いにたどり着く。困っていたのは在庫の量ではありませんでした。在庫が切れたら終わってしまう、この仕組みでした。話題を足す作業は、その仕組みを一度も疑わないまま、中身だけ厚くしていく作業でした。
在庫を増やす前に、自分がどんな会話の持ち味か知っておくほうが先でした。無料の会話タイプ診断なら9問でタイプがわかります。人との距離の取り方を別の切り口で知りたいなら恋愛タイプ診断(6問・無料)も使える( 自分の傾向を知る材料になる)。
詰まっていたのは会話力ではなく、座っている向きでした
スマホのカレンダーをさかのぼって、東京で人と会った場所を全部書き出しました。カフェ、ランチ、居酒屋のテーブル席、もう一軒のカフェ。全部、向かい合っていました。例外はゼロ。
向かい合って座ると、視線の置き場は相手の顔だけになりました。だから話が止まった5秒は、そのままお互いが相手の顔を見ながら黙っている5秒になります。目のやり場を探す動きまで相手に見えるので、沈黙が事故として処理されます。
同じものを見て並んでいる席では、同じ5秒がまったく違う扱いになります。見るものが人以外にあるので、黙っていることが標準の状態です。沈黙は、席の向きによって、事故にも標準にもなります。
ずっと「仲良くなるには、向き合って話すべきです」と思っていました。順番が逆でした。向き合って話せるようになるのは、並んでいる時間を積んだあとです。
地元の10年は、会話でできていませんでした
ここで、自分でも驚いたことを書きます。地元の親友と何を話したかを思い出そうとしました。セリフが1つも出てきません。10年ぶん一緒にいて、覚えている会話がゼロでした。
出てくるのは全部、場所と姿勢です。部室の隅で、片方は漫画を読み、片方は宿題を写していた時間。自転車で坂を下りながら、前を見たまま交わした短い返事。駐車場で、同じ自動販売機の同じ列をながめていた時間。
つまり、10年ぶんの関係の材料は、向かい合った半日ではなく、同じものを見ていたほうの時間で積まれていました。その時間は、上京した日にまるごと消えます。東京に来て失ったのは友達だけではなく、黙っていても成立する場所そのものでした。無くなったのは場所のほうなので、置き直せるはずです。
この調査が社会活動として数えているものに、飲み会は1件も入っていませんでした
自分の思い込みだと嫌なので調べました。内閣府の孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(人々のつながりに関する基礎調査・令和7年)は、全国の満16歳以上から2万人を無作為に選んで行われ、11,873人が答えています。
この調査には、社会活動に参加しているかどうかと孤独感を組み合わせた表があります。20歳代のうち、何らかの活動に参加していると答えた332人で「孤独を感じることがしばしばある・常にある」は2.4%。参加していないと答えた613人では7.2%でした。同じ20代の中で、3倍ちがいます。割合の話なので、もとの人数が少ないぶん、この幅はぶれます。
数値は同調査の統計表1-17(性・年齢階級・社会活動への参加状況別の孤独感)から取りました。ただし、ここから言えるのは、その数字が並んでいるところまでです。参加すると孤独感が下がる、とは書けません。同じ時点で両方を聞いた表なので、孤独を感じにくい人のほうが参加しやすい、という逆向きの読み方も同じデータで成立します。仕事の状況や同居している家族の有無といった別の要因も、この調査からは切り分けられません。
おかしかったのは、そこではありませんでした。この調査が「社会活動」として数えているものの中身です。
| 数えているもの | その場で参加者が見ているもの |
|---|---|
| PTA・自治会・町内会 | 議題・資料・持ち回りの当番表 |
| 家族以外の人への手助け | 手助けしている相手と、その用事 |
| その他のボランティア | その日の作業 |
| スポーツ・趣味・娯楽・教養・自己啓発 | ボール・道具・作品・テキスト |
| その他(同窓会・信仰上の活動など) | 進行・式次第 |
つまりこの調査が社会活動として数えているのは、最初から全部やることが決まっている集まりのほうでした。飲み会も、交流会も、単発のイベントも、この5つには入っていません。
もちろん、調査がそう作られているだけで、飲み会に価値がないという話ではありません。ここで書けるのは、社会活動の欄に並んだのが全部、全員が同じものを見る形の集まりでしたという事実までです。参加の頻度も、続いた期間も、満足したかどうかも、この表からは分かりません。
この見方でCoeliaを見ると、当てはまる回と当てはまらない回があります
自分が主催しているイベントも同じ物差しで見た。ダーツなら的。フットサルならボール。ゆるゆるもくもく会は、それぞれ自分の画面を見ています。協力型ボードゲームのitoで見ているのは、自分の手元の数字とお題。この4つは、参加している時間の大半で人の顔を見ていません。
いっぽうで、食事や飲みの回はテーブルを囲むので、向かい合う時間のほうが長くなります。ここは正直に書いておきたい。だから会のはじめに、はじめましてカードを書く時間を置いています。なまえや出身のほかに、最近よかったもの・ちょっと得意なこと・相談に乗れることの欄もあります。書ける欄だけ埋めれば進みます。空いている欄があるほうがふつうです。
カードを書いているあいだ、全員が下を見ています。話題サイコロを振れば、次に全員が見るのはサイコロの出目。向かい合う席でも、見るものを1つ置けば、視線の逃げ場は作れます。食事の回でも、はじめての人が黙っている時間はふつうにあります。仕掛けを置いている理由は盛り上げるためだけではなく、ここにもあります。
人と会うときの席の向きを、1週間ぶん書き出してみます
何が変わったのかをはっきりさせるために、社会人3年目の春といまを並べました。
| 会うときの形 | 社会人3年目の春 | いま |
|---|---|---|
| 初対面でいきなり向かい合う約束 | ほぼ全部これ | 入れていません |
| 人以外に目を向けられる席や空間 | ゼロ | 通り道に1つあります |
| 会う前に用意するもの | 話題の棚(番号つき) | 何も用意しません |
| 沈黙が起きたときの扱い | 自分の失点として数えます | 数えていません |
| 会話が得意になったか | 得意ではありません | 得意ではない(変えていない) |
並べてみると、いちばん下の行が動いていません。会話が上手くなった行は、いまも空欄のままです。変わったのは、その上の4行だけでした。
やめたことは2つあります。1つは話題を仕込むこと。もう1つは、知り合ったばかりの人といきなり2人で向かい合う約束を入れることです。あれは関係の最初にやる形ではなく、積んだあとに来る形でした。順番を逆にやっていたので、毎回いちばん難しいところから始めていたことになります。
置いたのは1つだけです。その日にやることが決まっているイベントへ行きました。的があって、ボールがあって、カードがある場所です。行った日にやったことは、投げて、大きく外して、その場が笑って、次の人が投げただけでした。外したことに触れる人はいませんでした。話した内容は覚えていません。覚えていないのに、次の回に行きたくなっていました。
いきなり場所を変えなくても、試せることが1つあります。次に誰かと会うとき、席をカウンターか、並んで座れるほうにしてみてください。注文して、届くのを一緒に待つだけで、目のやり場が相手の顔以外に増えます。会話を用意する必要はありません。変えるのは自分ではなく、座る場所です。
いまも会話は上手くなっていません
初対面で沈黙が来ても、前ほど焦らなくなりました。帰り道に自分の受け答えを再生する時間も、短くなりました。
ただ、話し上手になったわけではありません。相手の目を見て話すのは今も苦手だし、間が空くと少し体が固くなります。会話力の行は、社会人3年目の春から動いていません。
欲しかったのは、誰とでも90分もたせられる自分でした。手に入ったのは少し違って、90分もたせなくていい場所でした。そこがあると、もたせられない自分は、そのまま放っておけます。
変えたのは自分ではありません。座る向きのほうでした。
よくある質問
ひとりで参加しても浮きませんか?
ひとりでの参加を歓迎しています。入り方に迷ったときは、その場で運営へ一言。運営が同席しているので、輪に入りづらいときは相談できます。
人の顔を見て話すのが苦手です。それでも行けますか?
行けます。この記事の話も、顔を見て話せるようになってから動いたものではありません。いまも苦手なままです。見るものが人以外にある場所なら、苦手なところを使わずに済む、というだけの話。
ダーツやフットサルの経験がなくても参加できますか?
経験は要りません。むしろ外したほうがその場は動く。上手い人だけが見られている場ではないので、同じ的を見ている時間そのものが目的です。腕前は関係ありません。
初対面で沈黙になるのは、自分の話し方に問題があるからですか?
話し方の前に、席の向きを見てください。向かい合う席では視線の置き場が相手の顔しかないので、話が止まった数秒がそのまま気まずさになります。同じものを見ている席なら、同じ数秒が何でもない時間として過ぎていきます。順番としては、席のほうが先です。
会う前に話題を用意していったほうがいいですか?
用意しても構いませんが、そこは詰まりどころではありませんでした。話題を増やすと、切れる時刻が後ろへずれます。ずれるだけです。用意する時間があるなら、人以外に見るものがある場所を選ぶほうへ回したほうが早い。
食事や飲みの回では、結局向かい合うことになりませんか?
なります。そこは正直に書いておきます。だから会のはじめに、はじめましてカードを書く時間と、話題サイコロを置いています。書いているあいだは全員が下を見ているし、サイコロを振れば全員が出目を見ます。向かい合う席でも、見るものを1つ置けば視線の逃げ場は作れます。
上京したばかりで、東京の土地勘がないのですが。
土地勘は要りません。運営が同席しているので、当日わからなくなったら公式LINEから連絡してほしい。集まる場所と時間はイベントごとの案内に載っています。上京してきた人も、東京で育った人も同じです。参加の条件は20代であることだけ。
会社の同僚とはふつうに話せます。それでも当てはまりますか?
当てはまることがあります。会社では、机の並びも会議の形も、話す用件も先に決まっています。用件が視線の逃げ場になっているので、沈黙が事故になりません。会社の外で急に話しづらくなるなら、変わったのは自分ではなく、その仕組みが無くなったほうです。
上京していなくても、この話は当てはまりますか?
当てはまることがあります。学校が終わって、通学路と部活が同時に無くなったところは同じです。実家に住んでいても、休みの日に外へ出る理由だけは自分で作ることになります。




