金曜の夜、連絡先の一覧を上から下まで指でなぞりました。洗濯機の終了音が鳴っても立たない。探していたのは、明日いきなり誘っても変じゃない相手です。会社の同期とは毎日喋っているのに、そこには名前が出てきません。指が止まったのは3人です。
そのうち2人は、最後のやりとりが「あけおめ」でした。残りの1人に「明日ひま?」と打って、消して、また打って、消す。文字を打っては消す動きだけなら、その夜がいちばん活発でした。
送信は0通。
Coelia代表の小幡十矛です。石川県から東京へ出てきたのは2021年。送れなかった理由は自分でも分かっていて、相手が自分を友達だと思っているか、確かめられなかったからでした。断られるのが怖いのとは、少し違う。「そこまでの仲だと思っていなかった」と分かるほうが、ずっと重い。ただ、止めていたのは確かめられないことではありません。順番のほうでした。
Coelia代表・小幡十矛が、なぜCoeliaを作ったのかを書いています。なぜCoeliaを作ったのか
友達だと思われているかを、誘う前に調べる方法はありませんでした
それでも、当時のわたしは探しました。材料はいくらでもある。既読が付くまでの時間。返ってきたスタンプの絵柄。こちらの投稿に反応があるかどうか。
相手が押したスタンプの絵柄で、こちらの土曜日の予定が決まっていました。犬が跳ねているスタンプなら送ってよくて、会釈しているスタンプなら送らない。書いてみるとばかげていますが、当時は真顔でやっていた基準です。
上がったのは読み取りの精度ではありません。送らない理由を見つける速さです。少なくともわたしの場合は、材料が1つ増えるたびに、送らない側の根拠が1つ増えました。金曜の夜に集めた材料は土曜の朝にはそろっていて、結論はいつも同じです。
相手の認識は相手の中にあります。こちらから開ける道具はない。ここまではそのとおり。問題はこの先です。この「分からなさ」を、わたしは送らない理由として使っていた。
誘えなかったのは、分からなかったからではなく、分かってから誘おうとしていたからです
自分の中に、順番がありました。①相手が自分を友達だと思っているか判定する。②友達だと確認できたら誘う。丁寧なつもりでいたのです。
ところが①は、こちらでは終われません。判定の材料は相手の中にあって、こちらが集められるのはその外側にある反応だけ。終わらない工程を先頭に置くと、後ろは一歩も進まない。
聞けば済む話に見えます。わたしも一度そう考えて、やめました。「わたしたち友達だよね」は10文字。遊びに誘うよりずっと重い一言です。確かめるほうが、確かめずに誘うより重い。丁寧に済ませるつもりで、いちばん重いものを先頭に置いていたことになる。
確かめてから誘うことにしていたので、わたしは誰も誘っていません。
あとから「自分だけだったのかも」と分かってしまった側も、同じところに立っている。分かったところで、確かめる道が最初から無かったのは変わらない。分かる前に止まっていたのか、分かったあとで止まっているのかの違いだけです。
研究の中で数えると、友情の半分は一方向でした
思い込みなら困るので調べた。2016年3月22日にPLOS ONEへ載った友情の相互性についての研究は、応用経営のコースを受けていた23歳から38歳の84人(男性40%・女性60%)が対象。クラスの全員について、どのくらい親しいかを段階で答えてもらい、一定より上を友達として数えます。あわせて「相手は自分を友達だと答えると思うか」も聞きました。
出てきた数字が2つあって、数えた対象が違います。片方は指名の件数で、もう片方は関係の本数です。
| 数えたもの | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 「相手も自分を友達だと答えるはず」と予想が付いた指名 | 1353件のうち1273件 | 94% |
| 両方向だった関係 | 775本のうち413本 | 53% |
この2行は同じ母数の前後比較ではありません。上は指名を数えた行で、下は関係を数えた行。94から53を引いた数には意味がないし、予想が何割当たったのかも、この2つからは出せません。並べて言えるのはここまでです。予想はほぼ全部の指名に付いていて、関係の側を数えると半分が一方向だった。
既読の速さもスタンプの絵柄も、この2行のどちらにも出てきません。この研究は、予想を答え合わせする手続きそのものを置いていない。聞いて確かめた人が何人いたのかも、数えていない。
この調査には限界があります。対象は84人で、しかも同じコースを受けていた人たちに偏っている。年齢も23歳から38歳で、22歳以下は入っていません。日本で行われた調査でもない。同じ論文が別の集団で出した一方向の割合の幅(34%から53%)も、大学のネットワークで数えたもので、社会人一般ではない。だから「20代の友情の半分は片思い」とは書けず、書けるのは、この2つが同時に成り立つ集団が実在した、というところまでになります。
読んでいて手が止まったのは、予想が指名のほぼ全部に付いていたところです。そこに、確かめるという工程が挟まっていない。丁寧に順番を守っていたのは、こちらです。守っていたぶんだけ、誰にも会っていません。
やめたのは採点と順番待ち。置いたのは2回目
やめたことが2つ、置いたことが1つあります。
やめたのは、相手の反応から気持ちを採点すること。それと、友達と呼べる関係になってから誘おうとすること。置いたのは、次の回が先に決まっているイベントへ、2回行くことだけ。
| 見ているところ | 判定してから動く | 動いてから分かる |
|---|---|---|
| 最初にすること | 相手が自分をどう思っているかを読む | 次に会える予定がある場所へ行く |
| 材料のありか | 相手の中(こちらから開けられない) | 自分の予定表(こちらで動かせる) |
| 1通に乗るもの | 関係の答え | その日の都合 |
| 断られたとき | 関係の答えとして読んでしまう | 理由を読まなくて済む(次の回が決まっている) |
| 判定が終わる条件 | ない | 2回目に行った時点で要らなくなる |
効いたのは、1通に乗る重さが変わったことでした。次にまた顔を合わせる予定があると、その1通は「土曜どう?」で済みます。次が無いと、同じ1通に関係の答えまで乗ってしまう。宅配ボックスに入る荷物と、玄関で受け取るしかない荷物くらい違いました。
場所の選び方は1つで足ります。誘っていい相手かを、こちらに判定させない場所を選ぶこと。はじめての人がいる前提で進行が組まれている回なら、誰に話しかけてよいかを自分で決める場面が減ります。運営スタッフがいるイベントなら、入りづらいときにその場で相談できる。種目でしぼった面(ダーツ会の一覧など)を開くと、そのジャンルのイベントだけが並びました。
連絡先の一覧にいた3人には、次の回がありません。だから順番を入れ替えたところで、あの3人へ送る1通は重いままです。順番のほうを先に変えられたのは、次の開催が決まっているイベントを1つ持ったあとでした。いまはその3人にも送れています。
交換するかどうかで止まっているなら連絡先の交換を急がなくていい理由が近いはずです。人数を増やしにいって止まった話は誰とも話さない休日と満員電車の朝が同じくらい孤独だった話に書きました。
相手が自分を友達だと思っているかは、いまも知りません
いま、土曜日に声をかけられる相手が数人。その人たちが自分を友達だと思っているかは、確かめていません。聞いたこともない。一方向のほうに入っている可能性は、そのまま残っています。
欲しかったのは、自分を友達だと思ってくれているという確証でした。手に入ったのは少し違って、確かめないまま誘える相手です。
確かめてから誘うことにしていたので、わたしは誰も誘っていません。いまは、確かめる前に誘っている。この状態を友達と呼ぶのかどうかは、まだ決めていません。呼ばないままでも、土曜日は埋まりました。
友達だと思ってたのは自分だけ、と感じたとき先に押さえる3点
「友達だと思ってたのは自分だけ」で検索してきた場合、止まるのは相手の気持ちが分からないからではなく、確かめてから誘う順番にしていることが多いです。ここまで読む前に、始め方の型だけ先にまとめます。
- 重い理由:相手が自分を友達だと思っているか確かめようとすると、誰も誘わないまま週末が空く
- 置き換え:確かめる前に、小さな予定を1つ入れて反応を見る
- 具体案:「明日ひま?」を1人に送り、返事より送信した事実を合格とする
1回目が動けない整理は友達が欲しいのに1回目が動けないときの合格ラインが近いです。
よくある質問
「友達だと思ってたのは自分だけ」だったら、誘ったのは迷惑だったということですか?
そうとは限らない。あの研究は、誘った側が迷惑だったかを測っていません。相手が友達と呼ぶかどうかと、その日の予定が合うかどうかも別の話。断られたときに動いたのは、予定のほうでした。
相手が自分を友達だと思っているか、誘う前に確かめる方法はありますか?
相手の反応から読み取る方法はありません。認識は相手の中にあるからです。残るのは聞くことだけですが、「わたしたち友達だよね」は遊びに誘うより重い一言なので、確かめるほうが先に負担になります。2016年にPLOS ONEへ載った研究では、友達だと指名した1353件のうち94%に「相手も自分を友達だと答えるはず」という予想が付き、別に関係の本数を数えると775本のうち53%が両方向でした(数えた対象が違うので引き算はできません)。
誘って断られるのが怖いときは、どうすればいいですか?
断られる回数が痛いのではなく、その1通に関係の答えが乗っているのが痛いところ。だから、次の回が先に決まっている場所を選びます。次があると分かっていれば、1通に答えを乗せなくて済む。
誘う相手がそもそも思いつきません。
相手を思い出す作業から始めなくて大丈夫。はじめての人がいる前提で進行が組まれている回なら、誰を誘うかを決める場面がありません。20代限定でひとり参加を歓迎している場なら、誰と来たかの説明も要らない。場の選び方で迷ったときは交流会で友達ができないと感じるときも参考になるはず。
既読が遅い相手は、自分を友達だと思っていないということですか?
返信の速さから相手の認識は読み取れません。速さを決めるのは、その週の忙しさです。読み取ろうとしていた時期にこちらが上げたのは、読み取りの精度ではなく、送らない理由を見つける速さでした。
ひとりで行っても浮きませんか?
Coeliaの回には毎回、運営が入っています。輪に入りづらいとき、気になる言動があったときは、その場で相談できる。参加は20代限定で、ひとりでの参加は歓迎しています。誰と来たかを説明する場面もない。
話すのが得意ではない場合でも行けますか?
行けます。この記事の話も、得意になってから動いたわけではない。聞いているだけの回があっても構わない。選ぶのは、2回目に行けるかどうかのほうです。




