上京して最初の夏、平日の深夜1時すぎ。電気を消して天井を見ています。明日は9時に出社。布団に入ってから2時間で増えたのは、寝返りの回数だけでした。
昼はふつうに働いている。同期と昼ごはんにも行くし、会議でも喋ります。それなのに、電気を消した瞬間だけ「自分だけ取り残されている」という感覚が来る。
Coelia代表の小幡十矛です。石川県から東京に出てきました。この夜のことを、しばらく自分の気持ちが弱いせいだと思い込んでいた。原因は、気持ちの強さではありませんでした。
Coelia代表・小幡十矛が、なぜCoeliaを作ったのかを書いています。なぜCoeliaを作ったのか
夜になると寂しくなるのに、昼と寂しさの量は変わっていませんでした
社会人1年目の平日を思い出すと、「ひとり」の度合いは昼のほうが上です。オフィスで隣に座っている人の名前は知っていても、休みの日に誘える相手ではない。そのことは午後3時にも分かっています。それでも、午後3時にその考えで手が止まる人はいない。
夜も同じことを考えます。誘える相手がいない。予定がない。来年の今ごろも同じだ。考えている内容は、昼とほとんど一緒でした。違ったのは、その考えが出たあとに起きること。
昼なら、思いついた5分後に同期へ「今日どこかで飯行きます?」と送れます。断られても、そこで話は終わる。深夜1時に同じ文面を打つ手はありますが、送信ボタンを押す指は止まりました。押しても返事は朝まで来ないと分かっているからです。
つまり夜に増えていたのは、寂しさの量ではありませんでした。ひとりの度合いなら、昼のほうが上のまま動いていません。増えたのは、その日のうちに終わらせられない考えの数。この違いがはっきりしたのは、正しいと言われることを一通り試して、全部空振りしたあとでした。
眠ろうとするほど眠れなくなる仕組みは、国の睡眠ガイドに書いてあります
最初にやったのは、検索して出てくることを順番にやることです。寝る1時間前にスマホを伏せる。夕方以降のコーヒーをやめる。いつもより30分早く布団に入る。3週間くらい続けました。
結果はどうだったか。寝つくまでの時間は、むしろ伸びました。早く布団へ入ったぶんだけ、暗い部屋で考えている時間が長くなっただけです。カフェインを抜いた日に眠れないと、言い訳する材料まで無くなる。
あとから読んで、順番を間違えていたと分かりました。厚生労働省の健康づくりのための睡眠ガイド2023(令和6年2月)には、こう書いてあります。睡眠時間や就床時刻に過剰にこだわり、眠気が訪れていないのに無理に眠ろうとすると、脳の興奮がむしろ高まって寝つきを悪化させることがある。そして、寝つけないことを必要以上に悩んだり、日中の悩み事を寝床へ持ち込んだりして、余計に寝つけなくなる。
同じガイドは、なかなか寝つけないときの動き方まで書いています。一旦寝床を離れ、寝床以外の静かで暗めの安心感が得られる場所で眠気が訪れるまで安静に過ごし、眠気が来てから寝床へ戻る。眠れないまま布団にいる時間を、国のガイドラインが減らしにきている。気合いで寝ようとしていた側からすると、これは意外でした。
ここで手順の話は終わりです。スマホを伏せてもコーヒーをやめても効かなかったのは、その夜に自分の頭で何が起きているかを、まだ1つも見ていなかったからでした。何が起きているかを見ないまま環境だけ整えても、どこを直せばいいかが決まりません。
一人暮らしの夜に浮かぶのは、今夜は答えが出ない悩みだけ
眠れない夜に何を考えているのかを、翌朝メモへ書き出してみました。並べると、全部が同じ形をしている。
自分には友達がいないのではないか。この街に自分の居場所はあるのか。5年後もこの部屋でこうしているのではないか。どれも、深夜1時には確かめようがない。この記事ではこれを「今夜は答えが出ない悩み」と呼び、以下では短く「問い」とも書きます。
昼に浮かぶ考えは、その場で潰せる。「あの人に嫌われたかも」と思ったら、廊下ですれ違ったときの反応で答えが出ます。「この資料で合ってるかな」は聞けば5分で終わる。答えが出た考えは、頭から消えていきます。消えないのは、答えが出ないから。
夜に閉じているのは、寝ている相手だけではありませんでした。役所も、店も、会社も、まだ知らない人が集まっている場所も、全部閉じている。問いは浮かぶのに、確かめる窓口が1つも開いていません。だから同じ問いが何周も回る。深夜の頭の中は、返却口だけ閉まっている図書館のようなものでした。何冊でも借りることはできるのに、返す場所が朝まで開かない。
増えていたのは寂しさではなく、今夜は答えが出ない悩みの数でした。寂しさは昼からずっと同じ量でそこにあって、夜だけ出口が塞がる。塞がったものが頭の中に溜まって、体は起きたままになります。
「自分だけ取り残されている」という一文は、国の調査が孤独を測る設問でした
これが自分だけの話なら、ただの弱音です。そこで国の調査を開いた。内閣府の孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和6年)は、全国の満16歳以上から無作為に選んだ2万人へ2024年12月1日に調査票を送り、10,876件の回答を得ています(有効回答率54.4%・郵送またはオンラインで回答)。
驚いたのは設問でした。この調査は孤独感を2種類の聞き方で測っていて、間接的に測る側で使うのは次の3つです。自分には人とのつきあいがないと感じることがあるか。自分は取り残されていると感じることがあるか。自分は他の人たちから孤立していると感じることがあるか。
2番目が、深夜1時に自分の頭へ勝手に浮かんでいた文とほぼ同じでした。あの一文は、自分の弱さの証拠ではありません。孤独を測ろうとした人たちが、全国2万人へ向けて印刷した設問です。
そのうえで、直接質問に答えた10,871人の内訳を年齢ごとに見ておきます。
| どの程度、孤独であると感じるか | 20〜29歳(839人) | 全体(10,871人) |
|---|---|---|
| しばしばある・常にある | 7.4% | 4.3% |
| 時々ある | 17.0% | 15.4% |
| たまにある | 18.8% | 19.6% |
| ほとんどない | 32.5% | 40.6% |
| 決してない | 24.0% | 18.4% |
「しばしばある・常にある」は20代が7.4%。数字としては全年齢階級の中でいちばん大きい値です。ただし調査自身の書き方は「20歳代及び30歳代で高い」で、比率の差に統計的な有意差が出たときだけ判定する方式をとっています。ここまでは体感どおりでした。おかしかったのは、いちばん下の行。「決してない」と答えた20代は24.0%いて、全体の18.4%を上回っています。
強く感じる人の割合がいちばん高い年代が、まったく感じない人の割合も高い年代でもある。20代は孤独な世代なのではなく、同じ20代の中で割れています。だとすると、「若いうちはこんなもの」では流せない。
*この調査が測っているのは孤独感の有無と程度です。ここから読めるのは、あの一文を思い浮かべているのが自分だけではない、というところまで。
眠れない夜に浮かんだ問いに、確かめる時刻だけ書き足す
やめたことが2つあります。1つは、眠ろうと頑張ること。もう1つが、寂しさを消そうとすることでした。どちらも、その夜のうちに達成できたかを判定できません。判定できない目標を毎晩立てると、毎晩負ける。
置いたのは1つだけ。枕元に紙を1枚置いて、浮かんだ問いをそのまま書き、それぞれの右に「明日の何時に確かめるか」を書く。頭の中で回っているものを紙へ出すだけでは足りませんでした。出したあと、確かめる時刻を書いた行だけが、その夜のうちに回るのをやめる。
「自分には友達がいないのでは」は、そのままだと朝まで確かめられません。時刻を足すと形が変わる。明日の12時に、去年連絡した3人のトーク画面を開いて最後のやりとりの日付を確認します。これなら1分で終わるし、答えも出る。答えが出ると分かっている問いは、夜のあいだ静かにしていてくれました。
| 夜にやること | 社会人1年目の夏 | いま |
|---|---|---|
| 浮かんだ問いの置き場所 | 頭の中だけ | 枕元の紙 |
| 問いに書き足すもの | なし | 明日の何時に確かめるか |
| 寝つけないときの居場所 | 布団の中で粘る | 暗いまま布団を出る |
| その夜の目標 | 眠ること | 問いに宛先を書くこと |
| 翌朝にやること | 覚えていない | 書いた時刻に1つ確かめる |
寝つけないと分かった時点で、暗いまま布団を出るようにもしています。睡眠ガイドが書いているのは「なかなか寝つけないときは一旦寝床を離れる」までで、何分で見切るかまでは書いていない。自分は20分か30分で切り上げる形に落ち着きました。布団は眠る場所で、考える場所は別に要ります。分けてしまうと、布団に入る時点で身構えることが減りました。寝る前の支度そのものが重くて布団まで遠い日は、夜のスキンケアを短くする整え方のように、工程の数を先に決めておくと迷う時間が減ります。
正直に書くと、眠れる日が急に増えたわけではありません。変わったのは、眠れない夜が「損した夜」でなくなったこと。紙に4行書いて、明日の予定が4つ増えた夜として終わります。同じ2時間が、同じ長さのまま別のものになりました。
帰り道や布団の中で自分の発言を思い返してしまうときは、こちらが近い入口です(交流会のあとのひとり反省会をやめる)。SNSを開いて焦る夜が強いなら、こちらに書きました(SNSの予定に焦るとき)。
ひとりでいる夜と、孤立している夜は違います
紙を続けているうちに、書いた問いが2種類に分かれると気づきました。片方は「今夜ひとりでいること」についての問い。もう片方が「この先ずっと誰ともつながらないのではないか」についての問いでした。
前者は、朝が来ると自然に消えます。ひとりで過ごす夜そのものは、直さなくていい。金曜に家で映画を見て終わる夜を、失敗だと数えなくていい。この2つを1つにして数えていたのが、当時の自分でした。
後者だけが残ります。そして残ったほうには、紙に時刻を書ける。日曜の11時に、行けそうな会が今月にあるか一覧を開いて数えます。種目をしぼって見たいときはダーツの回にまとまっている。1回だけ予定に入れてみる。確かめるまでは、明日の夜もまた答えの出ない問いのまま。
休日に誰とも話さない日が続くこと自体をどう扱うかは、別の記事に書きました(休日に誰とも話さない日と、満員電車の朝が同じ孤独になる理由)。平日の夜の時間そのものを配り直す話はこちらです(平日夜の2時間を3つに分ける)。
増えていたのは寂しさではなく、今夜は答えが出ない悩みの数でした。減らすなら、朝まで持ち越す問いの数から。
夜に寂しくて眠れないとき、先に押さえる3点
「夜 寂しい 眠れない」で検索してきた場合、しんどいのは寂しさの量より、深夜に浮かんだ問いを確かめる手段がひとつも開いていないことが多いです。ここまで読む前に、始め方の型だけ先にまとめます。
- 重い理由:連絡・行く・聞くが閉まった時間帯に、今夜は答えが出ない悩みだけが回る
- 置き換え:寂しさを減らすより、浮かんだ問いを紙に書き明日の何時に確かめるか1行足す
- 具体案:1つの問いにだけ「明日12時にLINEで1人に送る」と書いて寝る
上京後の孤独の整理は上京して孤独を感じる理由にまとめています。
よくある質問
夜になると急に寂しくなって眠れないのは、おかしいことですか?
おかしいことではありません。夜は、浮かんだ問いを確かめる手段が閉じている時間帯です。同じ考えでも昼なら数分で答えが出て頭から消え、深夜は答えが出ないまま回り続ける。この記事が扱うのは、その時間帯の条件までです。眠れない日が続いていたり、日中の生活に支障が出ていたりするときは、この記事より先に医療機関へ相談してほしい。
スマホを見るのをやめれば、寂しくて眠れない夜は減りますか?
減る人もいます。厚生労働省の睡眠ガイド2023は、寝室にスマートフォンやタブレット端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることを勧めている。ただ、この記事に書いたとおり、伏せただけでは頭の中の問いが残りました。画面を消すのと、問いに宛先を書くのは別の手当てです。
眠れないとき、布団の中で粘るのと出るのはどちらがいいですか?
厚生労働省の睡眠ガイド2023は、なかなか寝つけないときは一旦寝床を離れ、寝床以外の静かで暗めの安心感が得られる場所で眠気が訪れるまで安静に過ごし、眠気が来てから寝床へ戻ることを勧めています。粘るほど眠れなくなる場合がある、という書き方。
寂しさを紙に書き出すと、かえって落ち込みませんか?
書きっぱなしにすると落ち込むことがあります。この記事で足しているのは、書いた問いの右に「明日の何時に確かめるか」を1行書くところまで。気持ちを掘る作業として使わず、宛先の無い悩みに宛先を付ける作業として使ってほしい。何年かけても確かめようがない問い(あのとき別の選択をしていたら、など)だけは、書かずに置いて構いません。
眠れない状態が何週間も続くとき、生活の工夫だけで大丈夫でしょうか?
生活の工夫だけでは戻らないことがある。厚生労働省の睡眠ガイド2023も、推奨されている事柄を活用しても睡眠状態の改善が十分に得られない場合は医師に相談することを勧めている。眠れない日が続いていたり、日中の生活に支障が出ていたりするなら、この記事の話より先に医療機関へ。
一人暮らしをやめれば、夜の孤独感はなくなりますか?
住まいの形だけでは決まりません。内閣府の令和6年の調査では、孤独感が「しばしばある・常にある」と答えた20代は7.4%で、数字としては全年齢階級の中でいちばん大きい値(調査自身の書き方は「20歳代及び30歳代で高い」)。同時に「決してない」と答えた20代も24.0%いて全体の18.4%を上回っていた。同じ20代の中で割れているので、年代や住まいの条件だけで決まる話ではないと読めます。
夜に眠れないほど不安でも、人に会いに行く元気が出ないときは?
会いに行かなくて大丈夫です。この記事で夜のうちにやるのは、紙に問いを書いて時刻を足すところまで。会に申し込むかどうかは、明るいうちに決めれば間に合います。夜の判断は、そもそも確かめられない条件でされているので当てにならない。
ひとりで参加しても浮きませんか?
Coeliaはひとりでの参加を歓迎しています。運営が同席しているので、輪に入りづらいときはその場で相談できる。Coeliaのイベントは20代限定で、満20歳以上30歳未満の方が対象です。満20歳未満・満30歳以上の方の参加はご遠慮いただいております。




